Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

2019-01-01から1年間の記事一覧

映画:「2人のローマ教皇」

Netflix製作だが、配信前に期間限定で上映されているもの映画館で見てきた。監督はフェルナンド・メイレレス。ベネディクト16世をアンソニー・ホプキンス、ホルヘ・ベルゴリオ(現在の教皇フランシスコ)をジョナサン・プライスが演じ、ゴールデン・グローブ…

【文献紹介】神野由紀・辻泉・飯田豊編著『趣味とジェンダー:<手づくり>と<自作>の近代』

神野由紀・辻泉・飯田豊編著『趣味とジェンダー:<手づくり>と<自作>の近代』青弓社、2019年を読んだので簡単なメモ。 趣味とジェンダー 〈手づくり〉と〈自作〉の近代 作者:神野 由紀,辻 泉,飯田 豊 出版社/メーカー: 青弓社 発売日: 2019/06/18 メディ…

映画:「ローマ法王になる日まで」

ローマ教皇フランシスコの来日にあわせ、各地の映画館で特別に再上映が始まった。前に見逃していたので、吉祥寺アップリンクでこの機会に鑑賞。休日の朝10時前に始まるにもかかわらず、客席は8割以上埋まっていた。来日当日とはいえ、みんなそんなに教皇が好…

論文紹介:バーバラ・ニューマン「7層の山:ハッケボルンのメヒティルトとダンテのマテルダ」

Barbara Newman, "The Seven-Story Mountain: Mechthild of Hackeborn and Dante's Matelda," in: Dante Studies, vol. 136, 2019, 62-92 を読んだ。 ダンテの『神曲』煉獄編第28~33歌で案内役を務める貴婦人マテルダは誰なのか、を主題とした論文である。基…

映画:「ガーンジー島の読書会の秘密」

吉祥寺アップリンクで上映が始まった「ガーンジ島の読書会の秘密」を見てきた。 舞台は1946年。作家のジュリエットは本をきっかけにガーンジー島のドーシーから手紙を受け取り、彼が参加する「読書とポテトピールパイの会」を知る。この会に関心を持ったジュ…

大島旅行記

2019年8月、勝山の後に大島(香川県)にも行ったのでその記録。 この島は現在開催中の瀬戸内国際芸術祭に参加している。島全体が国立療養所大島青松園であり、かつてハンセン病に罹ったためにこの園に入り、完治後の現在も暮らす入所者のケア施設となってい…

WikiGapに参加しました

9月29日にスウェーデン大使館で開催されたWikiGapエディタソンに参加してきました。このイベントについては記事も出ていますが、ウィキペディアにおける記事・執筆者におけるジェンダーギャップ(男性が圧倒的に多い状態)の解消を目的としたものです。 私は…

ラグビーW杯:不正チケットかな?と思ったら

もうすぐラグビーW杯が日本で始まります。 ラグビーは嫌いではないし、むしろ好きなスポーツなのですが、気をつけるべきこともあります。その一つが不正転売チケットです。 なぜこう書くかというというと、私が当事者だからです。 6月にチケット不正転売禁止…

英国ロイヤル・オペラ「ファウスト」

2019年9月12日、英国ロイヤル・オペラ来日公演の初日、グノー「ファウスト」を東京文化会館で見た。 英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演「ファウスト」プロモーション映像 指揮:アントニオ・パッパーノ 演出:デイヴィッド・マクヴィカー ファウスト:ヴィ…

勝山旅行記

2019年8月に瀬戸内旅行に行ってきた。何箇所か回ったので、記憶のために写真をまとめておく。 最初は8月10日に行った岡山県勝山。JR岡山駅から鉄道または高速バスで行ける。ガイドブックには鉄道の情報しかなかったが、こちらは本数が少ない上に2時間以上か…

日本の「手芸」はいつ牙を抜かれたのか?

i-d.vice.com 刺繍に焦点をあて、欧米における「テキスタイル」の意味の変遷を社会的・文化的に紹介した記事。とても興味深く、共感できる点が多いが、日本のいわゆる「手芸」はこのような社会的評価からはかなり離れた文脈に置かれているように思う。 私が…

映画:「人生はシネティック!」

シネフィルWOWOWで放映されていた「人生はシネマティック!」(2016年イギリス)を見た。リサ・エヴァンズの小説Their Finest Hour and a Half を原作として、ロネ・シェルフィグが映画化したロマンティック・コメディである。 映画『人生はシネマティック!…

街頭演説に行ってみた

7月7日中野駅北口で行われた自民党の街頭演説会に行ってみた。丸川珠代候補の応援演説会である。あれほどたくさんの議員を見たのは初めて、というか自分の選挙区選出の議員も実際に見たのは初めてだった。 けっこう人がたくさん集まっていたので、密集してい…

西洋中世学会ポスター・セッションで発表しました

2019年6月22, 23日に大阪市立大学で開催された西洋中世学会第11回大会ポスター・セッションで発表しました。タイトルは「ヘルフタ修道院における知的営み:『書く』ことの意味」です。聞いてくださった方、コメントをくださった方、みなさまどうもありがとう…

【雑感】人はいつ餃子を食べるのか?

テレ東で金曜日深夜に放送中のドラマ「きのう何食べた?」。一週間の癒しとして私も夢中になって見ている。先日放送の第10話は「浮気」がテーマで、前半のクライマックスは恋人シロさんの浮気を心配したケンジが感情を大爆発させた場面である。このシーンは…

ミランダ・カーター『アントニー・ブラント伝』

ミランダ・カーター(桑子利男訳)『アントニー・ブラント伝』中央公論社、2016年 しばらく前に何度目のいわゆる「ケンブリッジ・スパイ」読書ブームが来ていたので読んだ。この本の直前にベン・マッキンタイアー『キム・フィルビー かくも親密な裏切り』も…

【文献紹介】『キリスト教的伝統における中世の聖なる女性たち:1100-1500年』

Alastair Minnis and Rosalynn Voaden (eds.), Medieval Holy Women in the Christian Tradition, c. 1100 - c. 1500 (Brepols Essays in European Culture, vol. 1), Turnhout: Brepols, 2010. ブレポール社によるヨーロッパ文化シリーズの第1巻。 今さら言…

ETV特集「彼らは再び村を追われた 知られざる満蒙開拓団の戦後史」

ETV特集「彼らは再び村を追われた 知られざる満蒙開拓団の戦後史」を見た。 途中から見たのだけれど、凄まじい内容だった。この時代を全て経験した人がいるのだと思うと、言葉がない。 内容をざっくりまとめると以下の通り。 昭和初期から、国策により満蒙に…

キム・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』と古市コメントについて

キム・ナムジュ(斎藤真理子訳)『82年生まれ、キム・ジヨン』筑摩書房、2018年。 これは私の専門とは直接関係のない本だけれど、2019年3月16日付朝日新聞の広告にあった古市憲寿氏の感想にあまりにも驚いたので、一言書いておく。 TwitterやInstagramの投稿…

【文献紹介】『中世の列聖審問における奇蹟:構造・機能・方法論』

Sari Katajara-Peltomaa, Christian Krötzl, Approaching Twelfth- to Fifteenth-Century Miracles: Miracle Registers, Collections, and Canonization Processes as Source Material, in: Christian Krötzl, Sari Katajala-Peltomaa (eds.), Miracles in M…

ビンゲンのヒルデガルト研究(2)

前の投稿で指摘した通り、ヒルデガルト研究で日本と海外で進展度に大きな差がある。ここでは、ヒルデガルトについて知りたい人がまず読むべき本として、ブリル社の『ビンゲンのヒルデガルト必携』を挙げる。 Beverly Mayne Kienzle, Debra L. Staudt and Ger…

ビンゲンのヒルデガルト研究 (1)

ビンゲンのヒルデガルト(1098~1179)は女子修道院長、神秘家、著作家。ライン地方の貴族家門に生まれ、幼少期にベネディクト会修道院ディジボーデンベルクに奉献された。シュポンハイムのユッタと敬虔な生活を送っていたが、他の女性たちが集まって共同体に…

史料紹介:ハッケボルンのメヒティルト『特別な恩寵の書』(Liber specialis gratiae)

ドイツ・ザクセン地方にあったシトー会女子修道院ヘルフタで書かれた神秘主義、幻視文学のテクスト。著者はハッケボルンのメヒティルト(1241~1298年)とされるが、これは彼女の幻視を記録しているためで、本人が書いたのは全7巻中第4巻の後半のみである。残…