Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

西洋中世学会ポスター・セッションで発表しました

 2019年6月22, 23日に大阪市立大学で開催された西洋中世学会第11回大会ポスター・セッションで発表しました。タイトルは「ヘルフタ修道院における知的営み:『書く』ことの意味」です。聞いてくださった方、コメントをくださった方、みなさまどうもありがとうございました。

 

 今回の発表内容は完成度の高い研究報告ではなく、あるアプローチのアイデアをヘルフタのゲルトルート『神の愛の使者』第1巻という史料に応用し、研究自体の方向性を模索する試みでした。発表者としては学ぶことが大変多く、より長期的なプロジェクトにつながる手応えを得ることができました。

 ポスターは文字情報を極力減らして余白を多く取り、そこに質問が多かった事項やいただいたコメントをその場で書き込むという発表形式を選びました。最初からきちんと完成したものを掲示すべきだという考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、ポスター・セッションはガイドラインにある通りフリー・ディスカッションの要素が強く、現在の研究段階を考慮すると無理に情報を詰め込むよりも即興性の強い方法が適していると判断し、あのような形になりました。

 

 あえてアナログな手法を採用したのには、もう一つ理由があります。近年ポスター賞が設けられ、自由論題報告に匹敵する内容の優れたポスターが増えつつあることです。これはすばらしいことで、全く異論ありません。しかし、ポスター・セッションにはより大きな可能性が潜んでいます。西洋中世史は専門のゼミがある大学が減少し、かつてのようにゼミ内で高度に学術的な議論を交わせる場所が少なくなっているのはあきらかです。普段は孤立して研究している人が、気軽に考えを話せる場としても機能することを期待しています。

 

 なお、ポスターに書き込むという発想はメアリー・カラザース『記憶術と書物』から得ました。この中でカラザースは、中世にテクストは著者のものではなく、読者は書き加えと議論を通じて自らのものとし、テクストは公共の記憶となっていったことを指摘しました。それと似た形で、発表者がセッション中のコメントを独占せず、他の方と共有することでより議論が深まるのではないかと考えたためのものです。