Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

聖人伝はいつ書かれたのか?ー成立年代を調べるー

研究上の必要で聖人伝の成立年代をまとめてリサーチしたので、使ったもの、便利だったものを忘れないうちに記録しておく。 「中世の聖人伝がいつ書かれたのか」という問いは一見簡単だが、答えを知るのは案外難しい。これにはオリジナルがほとんど残っていな…

女性史学賞について

2020年に刊行した『「聖女」の誕生ーテューリンゲンの聖エリーザベトの列聖と崇敬ー』(八坂書房)が第17回女性史学賞をいただくことになりました。 【重要】「2022年度 第17回女性史学賞」選考結果 受賞作:三浦 麻美氏 『「聖女」の誕生―テューリンゲンの…

講演のお知らせ

10月15日にオンラインで講演をします。専門のことをわかりやすくというコンセプトで、参加費も無料なので、興味のある方はぜひご参加ください。よろしくお願いします。

【お知らせ】西洋中世学会ポスター発表をします

開催中の西洋中世学会第13回大会のポスターセッションで「メヒティルトからゲルトルートへーヘルフタ修道院におけるlitteraー」の報告をします。同じ修道院で2人の修道女が書いたテクストに出てくる同じ単語に注目し、13世紀の思想という文脈に女性の存在を…

ワクチン接種予約奮闘記

新型コロナウイルスのワクチン接種のため、予約受付が私の住む東京某区でも始まった。同居する後期高齢者の両親2人分のワクチン接種予約を取るまでの様子を記録しておく。 **************** 2021年4月23日:ワクチン接種のためのクーポン発…

【お知らせ】共訳書が出ます

翻訳に参加した本が今日刊行されます。 ウィンストン・ブラック(大貫俊夫監訳)『中世ヨーロッパ—ファクトとフィクション—』平凡社、2021年 中世ヨーロッパ: ファクトとフィクション 作者:ウィンストン・ブラック 発売日: 2021/04/23 メディア: 単行本 私は…

バーバラ・H・ローゼンワイン再考①

近年、歴史学では注目を集めた書籍の翻訳がまとまって刊行されたこともあり、「感情史」が新しい研究分野として大きな注目を集めています。この分野の先駆的な研究者の一人がバーバラ・H・ローゼンワインです。ローゼンワインは2000年代後半から感情史に取り…

【文献紹介】ロバート・バートレット『なぜ死者がこれほどの偉業をなせるのか?—殉教者から宗教改革までの聖人と崇拝者—』

Robert Bartlett, Why Can the Dead Do Such Great Thigns? Saints and Worshippers from the Martyrs to the Reformation, Princeton, Oxford, 2013. 今まで何冊か聖人伝、教皇列聖審問に関わる本について述べたが、そもそもの聖人崇敬をテーマとした本を紹…

研究入門:教皇列聖について知るには

西洋中世史を学ぶために宗教関係の知識は不可欠だが、多くの場合は聖人崇敬が関わってくる。中世は13世紀頃までは聖人認定のシステムが確立していなかったため、大きく分けると「教皇に聖人として公布された聖人」と「教皇から承認をえていないが聖人として…

【文献紹介】ヘートヴィヒ・リュッケライン『中世北ドイツの文書・教育・宗教』

Hedwig Röckelein, Schriftlandschaften, Bildungslandschaften und religiöse Landschaften des Mittelalters in Norddeutschland (Wolfenbüttler Hefte 33), Wiesbaden, 2015. 著者のRöckeleinはドイツ、ゲッティンゲン大学中世史の教授でGermania Sacraの…

映画:「ねじれた家」

映画「ねじれた家」がミステリーチャンネルで放送されていたため視聴。原作はアガサ・クリスティの同名作品、監督ジル・パケ=ブレネール、主演グレン・クローズ、製作は2017年。 アガサ・クリスティーの世界/映画『アガサ・クリスティー ねじれた家』特別…

【文献紹介】エラ・ジョンソン『これはわたしの体である:ヘルフタの大ゲルトルートの著作における聖体の神学と人類学』

Ella Johnson, This is My Body: Eucharistic Theology and Anthropology in the Writings of Gertrude the Great of Helfta, Collegeville, 2020. This Is My Body: Eucharistic Theology and Anthropology in the Writings of Gertrude the Great of Helft…

『西洋中世研究』に寄稿しました

『西洋中世研究』第12号に投稿論文が掲載されました。 「呪詛ではなく祝福をーマンスフェルト伯家と家門修道院ヘルフタに見る13世紀末の紛争と和解ー」2020年、128-143頁 ヘルフタ修道院は神秘主義で有名なシトー会女子修道院です。この修道院で作成された証…

『「聖女」の誕生ーテューリンゲンの聖エリーザベトの列聖と崇敬ー』の読み方

友人から「買ったけれど難しい」という感想をもらったので、聖エリーザベト紹介を中断して、この本の読み方を提案します。 この本は、私が中央大学に2012年に提出した博士論文「聖人伝と聖人崇敬から見る13世紀ーテューリンゲンの聖エリーザベトをめぐってー…

テューリンゲンの聖エリーザベト紹介(4):ヴァルトブルク城前編

テューリンゲンの聖エリーザベトについて。今日はヴァルトブルク城です。 1999年に世界遺産に登録されたヴァルトブルクはテューリンゲン州アイゼナハにある山城で、当時、テューリンゲン方伯だったルドヴィング家の居城として11世紀頃に建てられました。現在…

テューリンゲンの聖エリーザベト紹介(3):マールブルク

テューリンゲンの聖エリーザベト紹介、続きます。今回はヘッセン州マールブルクです。「聖エリーザベト」というと、この都市が最も有名です。1228年頃から聖エリーザベトが施療院を設立して暮らしていました。聖人の善行として有名な病人の看護や貧者の世話…

テューリンゲンの聖エリーザベト紹介(2):テューリンゲン?ハンガリー?

「テューリンゲンの聖エリーザベト」紹介第2弾です。 ヨーロッパ中世は基本的に名字というものがありません。名字があるのは王家や貴族のごく少数派です。その人たちも、もとをたどれば同じ名前を代々使っているところから派生した名字だったりします(たと…

テューリンゲンの聖エリーザベト紹介(1):エリーザベト?エリザベート?

拙著『「聖女」の誕生ーテューリンゲンの聖エリーザベトの列聖と崇敬ー』の出版が近づいているので、その前に「テューリンゲンの聖エリーザベト」にまつわるあれこれを簡単に紹介したいと思います。初回は名前についてです。 「エリーザベト」のアルファベッ…

【お知らせ】単著が出ます

お知らせです。 2012年に提出した博士論文をもとにした、中世盛期の聖人崇敬と聖人伝についての本が出版されます。10月10日から書店売り開始ですが、予約も始まっています。 「聖女」の誕生──テューリンゲンの聖エリーザベトの列聖と崇敬 作者:三浦麻美 発売…

【文献紹介】ミリ・ルービン『中世』

Miri Rubin, The Middle Ages: A Very Short Introduction, Oxford, 2014. The Middle Ages: A Very Short Introduction (Very Short Introductions) (English Edition) 作者:Rubin, Miri 発売日: 2014/10/23 メディア: Kindle版 オクスフォード出版のA Very…

日本の手芸はいつ牙を抜かれたのか(2)

最近は日本の手芸とジェンダーについての本が色々と出ているが、社会制度の面から見ると、どのようにして手芸が政治に取り込まれていったのかがわかるものは意外と少ない。なので、(1)に続いて編物を題材に戦後の様子を概観する。 (なお、これはきちんと…

授業で使えるドイツ語映画(2)

2019年度に担当講義で上映した映画とその候補作のメモ。 この年度から1コマ当たりの講義時間が100分に延長になったため、90分くらいでカットなしに鑑賞でき、かつ感想を書く時間が確保できそうなものを選んだ。しかしそうやって選んでも、現実は教室のプロジ…

研究会「西洋中世における共同体ーインエクレシアメント論の視点からー」開催のお知らせ

研究会のお知らせです。 2月15日(土)に東洋大学で研究会「西洋中世における共同体ーインエクレシアメント論の視点からー」を開催します。私も趣旨説明で少しだけ話します。 インエクレシアメント論は日本語ではなかなか言及される機会がないので、これをき…

映画:「ジョジョラビット」

「ジョジョラビット」を見てきた。2019年アメリカ製作、監督タイカ・ワイティティ、主演ローマン・グリフィン・デイヴィス。今年のアカデミー賞では作品賞をはじめとする複数の賞にノミネートされている。 タイカ・ワイティティ監督がヒトラーに!映画『ジョ…

授業で使えるドイツ語映画(1)

私はドイツ語講読の授業を担当しており、その中では半期に1回ドイツ語映画を鑑賞する機会を設けている。この教材選びは結構悩ましいので、今まで使った映画と候補にしたものをまとめておく。選ぶ際の条件は以下の通り。 ・ドイツ語が話されており、日本語字…

映画:「2人のローマ教皇」

Netflix製作だが、配信前に期間限定で上映されているもの映画館で見てきた。監督はフェルナンド・メイレレス。ベネディクト16世をアンソニー・ホプキンス、ホルヘ・ベルゴリオ(現在の教皇フランシスコ)をジョナサン・プライスが演じ、ゴールデン・グローブ…

【文献紹介】神野由紀・辻泉・飯田豊編著『趣味とジェンダー:<手づくり>と<自作>の近代』

神野由紀・辻泉・飯田豊編著『趣味とジェンダー:<手づくり>と<自作>の近代』青弓社、2019年を読んだので簡単なメモ。 趣味とジェンダー 〈手づくり〉と〈自作〉の近代 作者:神野 由紀,辻 泉,飯田 豊 出版社/メーカー: 青弓社 発売日: 2019/06/18 メディ…

映画:「ローマ法王になる日まで」

ローマ教皇フランシスコの来日にあわせ、各地の映画館で特別に再上映が始まった。前に見逃していたので、吉祥寺アップリンクでこの機会に鑑賞。休日の朝10時前に始まるにもかかわらず、客席は8割以上埋まっていた。来日当日とはいえ、みんなそんなに教皇が好…

論文紹介:バーバラ・ニューマン「7層の山:ハッケボルンのメヒティルトとダンテのマテルダ」

Barbara Newman, "The Seven-Story Mountain: Mechthild of Hackeborn and Dante's Matelda," in: Dante Studies, vol. 136, 2019, 62-92 を読んだ。 ダンテの『神曲』煉獄編第28~33歌で案内役を務める貴婦人マテルダは誰なのか、を主題とした論文である。基…

映画:「ガーンジー島の読書会の秘密」

吉祥寺アップリンクで上映が始まった「ガーンジ島の読書会の秘密」を見てきた。 舞台は1946年。作家のジュリエットは本をきっかけにガーンジー島のドーシーから手紙を受け取り、彼が参加する「読書とポテトピールパイの会」を知る。この会に関心を持ったジュ…