友人から「買ったけれど難しい」という感想をもらったので、聖エリーザベト紹介を中断して、この本の読み方を提案します。
この本は、私が中央大学に2012年に提出した博士論文「聖人伝と聖人崇敬から見る13世紀ーテューリンゲンの聖エリーザベトをめぐってー」をもとにしており、歴史学の分野で求められる作法にのっとって書かれています。そのため、西洋中世の概説書や入門書の次にこの本を読む人には、小説ではないので無理に前から順番に読む必要はない、と声を大にして言いたいです。そもそも、各章は独立した論文として投稿したものを土台にしているので、興味がある章だけ読んでも何とかなる、と思います。
それでも本という形をとっている以上、抑えておく方がよいポイントもあります。以下、その解説です。
・はじめに、序章
ここは最初に読む方がよい箇所です。当時の時代背景や基本的な用語の説明があるので、ここを飛ばすと全体の印象が曖昧になります。
・第1章
難関です。この章で行っているのは論の信頼性を示すために学術論文では不可欠な手続きですが、テューリンゲンの聖エリーザベトについて早く知りたい場合はまどろっこしく感じるでしょう。また、聖エリーザベトについて何か書きたい人にとってはお宝の情報満載ですが、そうではない場合は必要な箇所だけ読めば十分です。重要度を具体的に示すと、次のようになります。
1.聖エリーザベト略伝 ★★★
メインテーマと直結するので、ここを読まないとどの章を読んでも話が捉えられません。逆に、ここだけ読めば次の章に進んでもよいです。
2.聖エリーザベト崇敬の拡大 ★★
後での崇敬の広まりを扱っています。口絵の写真で興味をもったものがあれば、読んでみてください。
3.史料について ★
この本で使う史料を年代順に整理、紹介した部分なので、何のために読むかによって、最も評価が分かれるところです。通常は見出しだけチェックして、後の章で出てきた気になった箇所を読んでみることをお勧めします。
4.聖人伝 ★
史料の続きです。こちらも気になったものがあれば、辞書のように使ってください。
5. 先行研究と問題点 ★★
この本で論じる問題設定を具体的に示しているので、できれば読んでほしいところです。先行研究で次々と研究者の名前が出てくるので混乱する、という場合は73頁以降だけでもよいと思います。
・第2〜6章
本論部分です。前から順番にでも、好きなところからでも、自由にお読みください。
・終章
結論です。先にこちらを読んで論の全体像をつかむこともできます。
・補遺
本論で扱った崇敬が14世紀以降現代までどのように展開したか、概観します。口絵や図版で入れたものは、だいたいここで言及があります。
・年表
主要な出来事が入っています。前後関係がつかめるまでは、参照する方がわかりやすいです。
・付録
中世聖人伝の全訳です。これほどの分量があるものが聖書の典拠と註付き、しかも一般の書店で買える本として出版されるのは極めて珍しいことで、出版社の英断です。13世紀には女性の聖人伝が多く書かれ、聖人伝というジャンル自体に転換点をもたらしたのですが、それらの作品に関しては史料・研究文献ともに日本語ではほとんど読むことができません。この点でも貴重な機会なので、ぜひお読みください。卒論などで史料が必要な方もどうぞ。