Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

授業で使えるドイツ語映画(2)

 2019年度に担当講義で上映した映画とその候補作のメモ。

 この年度から1コマ当たりの講義時間が100分に延長になったため、90分くらいでカットなしに鑑賞でき、かつ感想を書く時間が確保できそうなものを選んだ。しかしそうやって選んでも、現実は教室のプロジェクターが壊れたせいで別の教室を探してもらい、20分くらい足りなくなったりするのだった(前期はそうなった)。

 

・「ベルリン・フィル第三帝国ドイツ帝国オーケストラ」(2008年、100分) 

 

 第二次世界大戦当時にベルリン・フィルに在籍していた演奏者とその家族のインタビューと公演映像から、オーケストラが帝国にとってどのような意味を持っていたかに迫るドキュメンタリー。ドイツ人、ユダヤ人両方の証言を組み合わせることで、「よい演奏」を求める理想とその影に隠された欺瞞が次第に明らかになる。

 フルトヴェングラークナッパーツブッシュ、キッテルら一流の指揮者による演奏も入っており、質の高さはよく伝わってくる。ただし、日本語字幕には誤りが多い。

 

・「赤ずきん」(1962年、72分)


Rotkäppchen (1962) DEFA (2019, rbb)

 東ドイツの映画会社DEFAが作成したもの。グリム童話を下敷きに、ソ連のJewgni Schwarzによる脚本を使用している。

 基本的な話の展開はグリム童話の通りだが、赤ずきんが森を抜けておばあちゃんの家に行くまでの道行きがメインとなり、「寄り道するな」という教訓が全面に押し出される。途中にウサギや熊といった仲間が加わり、まるで桃太郎のようでもある。

 両親の比重が大きくなって共働きとして描かれていたり、興味深い翻案も見られるが、上映前には嗅ぎタバコの説明が必須。

 

・「ヒトラーの贋札」(2007年、98分)

ヒトラーの贋札 [DVD]

ヒトラーの贋札 [DVD]

  • 発売日: 2008/07/11
  • メディア: DVD
 

 

 実話に基づくストーリーで、第80回アカデミー賞外国語映画賞受賞。

 第二次世界大戦中、強制収容所でドイツの財政状況改善のためドル紙幣偽造に借り出されたユダヤ人の技術者たちを描く。主人公サリーは詐欺師であり、ちょっと「シンドラーのリスト」を思い出させるところもある。しかし偽造者たちは全員ユダヤ人であり、自分の生き残りと他の収容者との待遇の違い、戦争犯罪への加担などの問題を抱えることになる。

 ちょっと長めなのと、個人的にこの時期は「ヘス」「ヒトラー暗殺、13分の誤算」と続けて見ていたために虐待シーンに耐えられず、採用は見送った。

 

・「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」(1985年、94分)

 

 アンナ・マグダレーナが妻として見た作曲家セバスチャン・バッハの生涯を描く。10年近い歳月をかけて作られた映画で、バッハを演じるグスタフ・レオンハルト、ケルンテン候のニコラス・アーノンクールなど一流の演奏者が18世紀風の衣装を着て、当時の様子が再現されている。バッハは過労死しそうに働いていており、宮仕えはいつでも大変そうだ。

 演奏は素晴らしいが、バッハが好きな人でないと授業で扱うのは難しい。文化史か音楽の歴史がテーマならぴったり。

 ただし、パンフレットには難があると思う。充実したパンフレットだとレビューには書いてあるが、どれもクラシックの評論家から見たバッハ像と演奏の評価ばかり。これでは、わざわざ語り手をアンナ・マグダレーナにした意味がないではないか・・・。彼女自身も宮廷音楽家だったのだから、女性の音楽活動などにも目を配った構成にするべきだったと思う。