Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

映画:「ガーンジー島の読書会の秘密」

 吉祥寺アップリンクで上映が始まった「ガーンジ島の読書会の秘密」を見てきた。

 

  舞台は1946年。作家のジュリエットは本をきっかけにガーンジー島のドーシーから手紙を受け取り、彼が参加する「読書とポテトピールパイの会」を知る。この会に関心を持ったジュリエットは取材のため島に行くが、創設者のエリザベスは戦時中に行方不明になっていた。ドイツ軍占領下の島で何があったのか。人々が口を閉ざす中、ジュリエットは理由を突き止めようとする。

 2018年製作。監督はマイク・ニューウェル。主演はリリー・ジェームズ。原作はメアリー・アン・シェイファー、アニー・バロウズガーンジー島の読書会』。

 

 公式サイトには「ミステリー」となっているが、読むこと、書くことの両方を含めて本がどれほどの豊かさをもたらしうるかを描いている。期待していたよりもはるかに面白かった。ちょうど先日読んだナタリア・ギンズブルク『ある家族の会話』にも、何もない夏休みの別荘生活を雑誌数冊を暗記するほど読んで生き延びた、というエピソードが載っていたのを思い出す。

 

 また、「島」が舞台になっている点も特筆すべきだろう。ガーンジー島はイギリスとフランスの間にあるチャネル諸島の一つであり、島自体は決して大きいわけではなく、ジュリエットが直面するように閉鎖的要素が強い。しかし、近年は海とのつながりを背景に他島や本土、大陸との関係を視野に入れた話が多く描かれるようになっているように思う(アン・クリーヴスのシェトランドシリーズなど)。島の人々がドイツによるフランスの占領後すぐ、侵攻を見越して子供たちをブリテン島に疎開させたエピソードや、アイソラが「自分たちの先祖がどこから来たかわからない」とジュリエットにいう言葉など、同様の意識が端々に見られた。

 ちなみに、西洋中世史でも同様のアプローチは見られる。

 

 最後に、編み物をする私にとっては「ガーンジーセーター」も見逃せない。これはもともと漁師たちのために作られたセーターだが、養豚農家のドーシーも映画内で着ていた。定義としては前後対照でハイネック、脇下にダイヤモンド型のまちがある、ハイゲージでタイトなシルエットといった特徴がある。

 登場人物たちのニットはほつれたものをそのまま着ている場面がいくつかあり(ドーシーとアメリア)、けっこう驚いた。これはよく考えると、ハイゲージなのが原因だろう。手元の参考書、ジュディ・ブリテン『手芸の百科:ヨーロッパの伝統的技法のすべて』(文化出版局、1981年)を見ると、その凄まじさまがよくわかる。成人男性のセーター1枚に必要な材料が中細毛糸950gで、これを0号の針で編む。10 x 10cmのゲージは32目80段!私が普段編むセーターは1枚が300g弱、ゲージは28目32段くらいなので、単純に考えても同じ面積に倍以上の目数が入っていることになる。つまり、ちょっとしたことではほつれる心配がないほどきっちり編んであるので、わざわざ繕う必要がないのだろう。これをすべて手編みで作っていたことを考えると、1枚のセーターにもかなりの価値があったと思われる。