Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

テューリンゲンの聖エリーザベト紹介(1):エリーザベト?エリザベート?

 拙著『「聖女」の誕生ーテューリンゲンの聖エリーザベトの列聖と崇敬ー』の出版が近づいているので、その前に「テューリンゲンの聖エリーザベト」にまつわるあれこれを簡単に紹介したいと思います。初回は名前についてです。

 「エリーザベト」のアルファベットでのつづりはElisabeth/ Elizabethです。非常に古典的で、新約聖書に登場する洗礼者ヨハネの母「エリザベツ」も同じ名前です。英語だと発音は「エリザベス」。ここから派生するあだ名はベス、ベッキー、ベティをはじめ、エルサ、リサ、リジーなど様々で、イザベルなども語源はこの名前です。

 

 この名前、ドイツ語発音を日本語で表記するときに大きな問題があります。「エリーザベト」と「エリザベート」の2種類があるのです。西洋中世史の場合、人名表記は現地語もしくはラテン語発音というルールがあり、女性の場合はだいたい現地語(この場合はドイツ語)をとります。ですから、私は辞書の発音表記にあわせて「エリーザベト」を一貫して使ってきました。

 一方、「エリザベート」は19世紀にいたオーストリア・ハンガリー帝国最後の皇妃に関して用いられることが多いようです。なぜこのように辞書から離れた発音が採用されたのか、詳しい事情はわかりませんが、この人物にまつわる事柄に限定するならば、もう日本語として使っていいのではないかと思います。私も修士の頃はよく、「なぜ『エリザベート』にしないのか?」と質問されました。いくら「ドイツ語での発音は違う!」といっても、大ヒットしたミュージカルにはかないません・・・

 

* 短い記事ですが、「エリーザベト」に慣れすぎて「エリザベート」がキーボードで打てませんでした。ショック。