Liber specialis lectionis

西洋中世の歴史、宗教、文化を中心とした読書日記

【文献紹介】ミリ・ルービン『中世』

Miri Rubin, The Middle Ages: A Very Short Introduction, Oxford, 2014.

 

 

 オクスフォード出版のA Very Short Introductionシリーズ404、『中世』を読んだ。著者はミリ・ルービン。イギリスのクイーン・メアリ大学教授で中世・近世史を教えている。主な研究テーマはヨーロッパの宗教文化。主著にはCorpus Christi: the Eucharist in Late Medieva Culture, Cambridge, 1991がある。極めて重要であるにもかかわらず、邦訳がほとんどない研究者の一人でもある。

 

目次

1. The 'Middle' Ages?

2. People and their life-styles

3. The big idea: Christian salvation

4.  Kingship, lordship, and government

5. Exchange, enviroments, and resources

6. The 'Middle Ages'of 'others'

7. The 'Middle Ages' in our daily lives

 

 500~1500年を125ページに収める、無謀ともいえる挑戦。初学者よりも、中世史専攻を決めた学生が最初に読むように勧めたい内容となっている。中世全体にバランスよく目配りしてあるので全体像を把握したい人には有益だが、細かい説明や愉快なエピソードを求める人には無味乾燥と感じられるかもしれない。ハスキンス『12世紀ルネサンス』を思い起こさせる読後感だ。

 

 日本語で読める西洋中世の入門書といえば、岩波書店の「ヨーロッパの中世」シリーズがある。こちらが8巻かけてまとめたものを、ルービンは1冊で書いているので、アプローチにもそれなりの違いがある。しかし、個人的に最も違いがあると感じたのは次の2点。

 

・第2章で人々の生活について扱う際、身分と都市・農村という環境に加えてジェンダーについて早い段階で言及があり、女性が社会的・経済的役割を担っていたと述べている。最初にこの説明があると、続きの部分を読む際に自動的に女性の存在が意識に入ってくるので、この構成はとてもいいと思う。(個人的な印象だと、女性が登場するのはだいたい「宗教の章の末尾の節」なので)

 

・第3章は著者の研究テーマと重複することもあり、読みごたえがあった。今まで読んだ概説書は社会→宗教の順序が多かったが、中世社会は基本的にキリスト教的価値観を基礎にしているので、こちらの順番もいいと思う。

 ただし、最大の特徴は教区ネットワークと在俗聖職者による司牧活動の重要性を強調している点にある。中世キリスト教の研究では、教区教会には地域差が大きく、実態がつかみにくいため、修道制と各修道会の歴史の方がクローズアップされてきた。しかし、近年は教区ネットワークこそが俗人信徒の教化を担っていたとして、急速に研究が進みつつある。この辺は、日本と海外ではかなり問題意識に差がある。

 

 第1, 7章は中世がいかに現代の日常生活に影響しているかという視点から書かれており、欧米の読者向けの気もする。しかし、中世の文化がヨーロッパでは近代ナショナリズムと結びつき、現代の国家意識の基礎の一部となっているという指摘は妥当であり、日本の読者にとってもこの本レベルの知識を備えておくことは、有益だろう。